今回は「久世番子」先生の『ひらばのひと』という漫画を読んだので、ご紹介していきたいと思います。
『ひらばのひと』はこんな漫画(あらすじ)
講談では独特の調子で軍記物の勇壮な場面を読むことを修羅場(ひらば)と呼んでいます。
そんな伝統芸能の世界に泉花(せんか)は飛び込みました。
二ツ目の女流講談師まで昇格できたのですが、まだ一人前になれるかは分かりません。
日々精進している泉花に弟弟子の泉太郎(せんたろう)が自身の出処進退について相談してきました。
泉太郎が嫌いな泉花は鋳掛松という講談の演目を取り入れながら自分の未来は自分で決めろとアドバイスします。
果たして泉太郎が出した答えとは・・・!?
講談師という伝統芸能の世界をリアルに描いていく『ひらばのひと』!
今回は素敵な人情話が満載のヒューマンドラマについてネタバレを含みながら魅力をご紹介していきます。
鋳掛松という演目の面白さに魅了されてください。
『ひらばのひと』の魅力紹介(ネタバレ含む)
前編
まだ講談師の前座として駆け出し中の泉太郎が街を歩いていると警察官に話しかけられました。
警察官は泉太郎が背負っている大きな荷物が気になっているようです。
釈台と説明しても警察官は分かってくれません。
そのため泉太郎は路上で講談を披露することにしました。
警察官が講談を理解してくれたかは不明ですが、怪しい人物ではないと信用してくれます。
職務質問を乗り切った泉太郎が講談を行う会場へ到着すると、師匠の釈台を無断で使ったことを姉弟子に叱られてしまいました。
前座は黙って師匠の道具を運ぶことが仕事なのです。
飲み物を買いに行っていた泉花が楽屋に戻ってくると、常連客が姉弟子に叱られている泉太郎の様子を心配そうに見ていました。
前座は2年目が鬼門と言われていてこの時期に辞めてしまう人が珍しくありません。
常連客は久々に入門した若い男性の泉太郎が辞めないように見守っていたのです。
女性の講談師は生命力が強いと思われているので、前座だった頃に泉花は常連客に心配されたことなどありません。
扱いの違いに納得できない泉花は泉太郎と師匠の出迎えに行きます。
師匠の到着を待ちながら泉太郎が落ち込んでいないか尋ねてみました。
どうやら泉太郎は説教されても落ち込んでいないようです。
泉花は心配した自分が馬鹿馬鹿しく感じてしまいました。
2人が待っていると師匠が会場に到着します。
この日の師匠は音羽亭で頻繁に読んでいた演目を講談し始めました。
音羽亭は戦後、東京で唯一残った講談の定席として知られた講釈場です。
まだ若いため泉太郎は音羽亭を知りません。
音羽亭には時代を感じさせる気立ての良い女将さんや、年季が入った釈台が置かれていました。
その光景を姉弟子たちが懐かしがります。
講談を職業にしている人にとって音羽亭は登竜門と言えるのかもしれません。
泉太郎はそんな音羽亭を知らないことにショックを感じてしまいます。
見てみたいと思うのですが音羽亭は7年前の火事で取り壊されていました。
音羽亭は経営難だったため復活することはなかったそうです。
7年前の泉太郎はまだ高校生でした。
高校生の頃はまだ講談を始めていません。
そんな泉太郎のことを姉弟子が間に合わなかった世代だと言ってきます。
姉弟子の言葉に泉太郎は大きなショックを受けてしまいました。
師匠の演目が終わっても泉太郎は暗い表情を浮かべたままです。
間に合わなかった世代だと言われた泉太郎は泉花に悩みを相談することにしました。
しかし泉花の友人が食事に誘ってきます。
泉花は改めて話を聞こうと思うのですが、泉太郎のことを弟弟子だと知った友人が食事に誘いました。
誘われた何気ない食事会が泉太郎の運命を大きく変えていくのです。
講談師として一人前を目指す登場人物たちの情熱に感動しました。
その中で間に合わなかった世代という台詞がとても印象的ですね。
夢を追いかける中で揺れ動く登場人物の心情を切り取っていく『ひらばのひと』!
特殊な職業をテーマにしていますが、普通の職業にも通じる悩みを表現しています。
泉太郎の悩みを解消していく鋳掛松という演目の内容にご注目ください。
後編
泉太郎のことを食事に誘った泉花の友人が入門を決めた思い出の演目について質問してきます。
師匠の鋳掛松は泉花も大好きな演目でした。
しかし友人は鋳掛松を聞いたことがありません。
そのため泉花が鋳掛松の内容を説明することにしました。
鋳掛屋とは穴の開いた鍋や釜などの鋳物を修理する職人です。
松五郎は幼い頃、呉服屋に奉公することが決まりました。
ですが知恵が回り過ぎるという理由で暇を出されてしまいます。
仕方なく松五郎は父親と同じ鋳掛屋になることを決めました。
鋳掛屋として働き始めた松五郎は、夏の暑い日に貧困に喘ぐ納豆売りの母子連れと舟遊びに興じるお大尽と遭遇します。
両者を見比べているうちに汗水流して働いていることが馬鹿らしくなってしまいました。
鋳掛松という演目は大雑把に説明するとこのような内容です。
泉太郎はこの鋳掛松に人生を大きく変えられました。
そのまま泉太郎は講談師の世界に足を踏み入れたのです。
食事会は泉花の友人が離婚したことを打ち明けたところでお開きになりました。
泉太郎がどんなに好きでも世間の人は講談をあまり知っていません。
しかし講談の世界では泉太郎自身が何も知らない存在でした。
講釈場が賑わっていた時代も、名人たちが音羽亭で張扇を叩いていた時代も知りません。
現在の泉太郎にとっては全てが過ぎ去ってしまった過去の歴史となっていたのです。
泉太郎の悩みに泉花は少しだけ言葉に詰まってしまいました。
しかしすぐに自分なりの答えをぶつけます。
前座時代の泉花は悩んでも最後は進退を自分で決めてきました。
そのため厳しい言葉をぶつけたのですが、もしも本当に泉太郎が辞めてしまえば常連客に恨まれてしまうかもしれません。
後日、先輩風を吹かせたことに後悔している泉花が舞台に上がりました。
偶然にもこの日の演目は鋳掛松です。
泉花が修羅場(ひらば)のリズムで鋳掛松を読んでいる時、泉太郎は両国橋の上に立っていました。
泉太郎は泉花が演じる鋳掛松と同じような状況になっています。
演目が終了すると泉花は泉太郎に連絡を取ろうとするのですが返事がありません。
心配になった泉花が探しに行くと、泉太郎は勉強会の準備を進めていました。
心配していたので思わず語気が強くなってしまいます。
しかし泉太郎は全く気にしていません。
まるで鋳掛松のように川の中へスマホと財布を落としてしまいました。
そこで出会った中年男性が泉太郎の運命を変えることになります。
背負っていた釈台が講談で使う物と知った男性は、泉太郎に講談を見せて欲しいと言ってきました。
見せてくれたら帰りの電車賃を出してくれると言うのです。
講談を始めると泉太郎の胸に楽しい気持ちが湧いてきました。
このまま講談を読み終えたくありません。
一席を終えると男性は面白いと言ってくれました。
また落語とは違ってオチで終わらないことにも気づいてくれます。
鋳掛松のような状況になっても泉太郎は講談を楽しむことができました。
そしてこの男性の為にも講談を続けようと決意します。
泉太郎のように自分が時代に間に合わなかったと思う人はいるかもしれません。
しかし全ての人々が間に合わなかった時代に恋焦がれながら今をもがいて生きているのです。
悩みを解消することができた泉太郎は再び一人前の講談師を目指すことになりました。
そして泉花も女性講談師として前を向きながら歩いていくことになったのです。
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『ひらばのひと』を読んだ感想
可愛くないと思いながらも弟弟子のことを心配する泉花の姿に感動しました。
講談の演目を活用しながら素敵なセリフが満載になっているストーリー展開も素晴らしいですね。
心を打たれる感動作に仕上がっている『ひらばのひと』!
この作品を読むと講談を聴いてみたいと思うはずです。
『ひらばのひと』を読むことで奥の深い伝統芸能と触れあうきっかけにしてみてください。
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