今回は「原作 柚木麻子 漫画 もりとおる」先生の『あいにくあんたのためじゃない』という漫画を読んだので、ご紹介していきたいと思います。
『あいにくあんたのためじゃない』はこんな漫画(あらすじ)
SNSで辛口のラーメン店評論をしていた佐橋ラー油は人気者となりましたが、2年前から雲行きが怪しくなってきました。
その理由は毒が強めだった過去のブログが公開されてしまったためです。
バッシングされる佐橋ラー油の取材を受けるラーメン店は皆無となってしまいました。
そんな中、痛烈に批評したラーメン店“のぞみ”から来店してほしいとのDMが送られてきます。
開店から行列が絶えない人気店の”のぞみ”では、佐橋ラー油が思いもよらなかった再会が待ち受けていました。
素人のグルメ批評に関する問題点を炙り出していく『あいにくあんたのためじゃない』
今回は一般人が気を付けなければならない罪を表現したサスペンス漫画の魅力についてネタバレを含みながらご紹介していきます。
軽い気持ちで飲食店を批評することの罪深さを感じ取ってください。
『あいにくあんたのためじゃない』の魅力紹介（ネタバレ含む）
前編
中華そばと餃子、ライスの3商品だけで勝負する中華そば“のぞみ”は創業50年を超えました。
お店は家系の激戦区だった三軒茶屋駅から徒歩15分の場所にあります。
“のぞみ”はフランスミシュラン二つ星を獲得した2年前から行列が途絶えたことはありません。
人気の秘密は超クリアなスープで、数種類の地鶏とカツオベースの魚介を加えた無化調なスープはオーソドックスなビジュアルですが若い女性にエモいと人気を集めています。
また著名人のSNS投稿をきっかけに新たな世代のファンも獲得しました。
淡麗なスープに絡む麺は小麦粉に微配合された全粒粉が香ばしい滑らかでコシのある仕上がりになっています。
そして後味には柚子の皮がかすかに香ることで、疲れた身体でも最後の一滴まで飲み干せるものにしました。
丸い味の先にある複雑な旨味と凄みのあるコクはもう一度食べたいと思わせてくれます。
中毒性の高いスープはその秘密がネットで論争を繰り広げられるようになっていました。
“のぞみ”の店構えは木枠の引き戸に歴史を感じられます。
しかし一歩店内に入れば2023年という時代が反映されていることが分かるでしょう。
建築家片山朝陽が手掛けた内装はダークグレーで統一されたバリアフリーとなっています。
ベビーベッドも完備されていて、業界で最も早くジェンダーフリーのトイレを導入しました。
家庭用のテーブル席、ベビーチェアを用意していてローカウンターは車椅子にも対応しています。
そして1分間に1回の換気設備も取り入れました。
5年前の改装時には専用駐車場も併設したので遠方からのファンにも喜ばれています。
外国人観光客にも英語で丁寧な対応をしており、ニューヨークタイムズのグルメ雑誌でも絶賛されました。
“のぞみ”を営んでいるのは二代に渡る女性店主の柄本希です。
柄本は先代の母親からレシピを受け継ぎました。
そのレシピをベースに研究と食べ歩きを重ね、毎日のように配合を微妙に変化させています。
下仁田ネギとフランス産ポロネギから玉ねぎに切り替えて林檎をたしたことで”のぞみ”の方向性は決定しました。
謙虚な姿勢を崩さない”のぞみ”の強みは先代からのファンを魅了した上で、家族連れやライトな客層を取り込んだ点です。
柄本にはニーズに合わせた開発力と時代を見据える力がありました。
そのためまず第一に女性が一人でも入りやすい清潔感と安全さを心掛けています。
小さなお子様連れや障害のある方への配慮も忘れてはいません。
“のぞみ”ではこれまでに外見やジェンダーを理由に外食で不快な気分を味わった人や、高齢の方にも楽しんでもらいたいと考えています。
当たり前のように思い切って気軽に食事できる人ばかりではありません。
何とか時間を作りお金を節約してやっと席に座れたという人も大勢いるのです。
お客様への配慮を第一に考えている”のぞみ”には、ラーメン評論家の入店を断っているという噂がありました。
しかし余程のことがない限り入店を拒否することはありません。
迷惑行為には入店をお断りしていて、目の前で同様の行為があった場合も退店をお願いしています。
入店拒否や退店をお願いした方々がたまたま著名な愛好家や評論家だったことで、評論家お断りという噂が立つようになっていました。
“のぞみ”は厳しいご意見もありがたく受け止めようと考えています。
ただし愛好家や評論家のマナーに釘を刺すことも忘れていません。
変わり続ける”のぞみ”のように愛好家側の意識も変わらなければいけないのです。
人気ラーメン店の情熱と信念を感じられました。
どんなお客様でも大切にするという考え方が、評論家たちへの厳しい態度に繋がっていますね。
安易な気持ちで誹謗中傷する評論家へ苦言を呈していく『あいにくあんたのためじゃない』
他人への配慮を欠いた行為の罪深さを表現しています。
様々な立場と事情を考えることが大切だというメッセージが込められていますよ。
後編
ラーメン評論家の佐橋ラー油は仕事が激減したため暇な毎日を過ごしています。
地上波でレギュラーを務めたこともありましたし、街でよくサインも求められました。
SNSで自分のファンだという若い女性にはDMを送り、それをきっかけに交際したこともあります。
雲行きが怪しくなったのは2年前の事でした。
“のぞみ”ミシュランの獲得を知った佐橋ラー油は、お祝いがてら訪問することにします。
しかし入店を拒否されてしまいました。
再び訪問しても追い出されてしまいます。
拒否される理由が分からないのでSNSに投稿してみると、同じように締め出されている評論家たちが大勢いました。
評論家たちが”のぞみ”をバッシングする流れができますが、それは一時的なものになってしまいます。
当時は二足のわらじで情報誌の編集とブロガーの活動を行っていました。
最初の本を出版する時に毒が強めのブログは削除したのですが、魚拓を取っていた人たちに削除したブログを公開されてしまったのです。
佐橋ラー油はようやく入店拒否されて当然だということに気付きました。
このままでは仕事にならないので佐橋ラー油は知人から謝罪文を投稿した方がいいと勧められます。
“のぞみ”の店主である柄本希を紹介する記事は人気を集めていました。
佐橋ラー油は母性や包容力が感じられない二代目の柄本希が気に入りません。
先代が営んでいた”のぞみ”のことは買っていました。
当時は”のぞみ”を懐かし系おふくろ風味のほっこり中華そばと評価したこともあります。
二代目に代わった時も食べに来ましたが、挨拶は小さく愛想も笑顔もありません。
ラーメンを出す爪が干からびていたことも印象を悪くしました。
しかしラーメンの味は一定のレベルをクリアしていたので、佐橋ラー油はブログで悪い点を指摘しながらも味はしっかりと評価します。
根に持たれていることは面白くありませんが、佐橋ラー油はバッシングを受けてから何を食べても味がしません。
“のぞみ”のラーメンなら食べられるかもしれないと思った佐橋ラー油は、丁寧な謝罪文を投稿することにしました。
落ち込んでいると人気ラーメン評論家の替え玉太郎からDMが送られてきます。
DMで替え玉太郎は謝罪文が素晴らしかったと評価してくれました。
その上で”のぞみ”と親しいので店主に伝えておくと言ってくれます。
すると”のぞみ”が替え玉太郎を通して来店しても構わないと伝えてきました。
勇気を出して入店すると、店員がすぐに暖簾を片付けます。
流行していると聞いていましたが、お客は数名しかおらず食券機もありません。
店主の柄本希は無言のまま佐橋ラー油を出迎えます。
カウンターには替え玉太郎と思われる人が座っているのですが本人かどうかは分かりません。
後ろの席ではブランドバッグを持った母親が女子中学生とラーメンを食べています。
謝罪文は出しましたが偏見と価値観を押し付ける佐橋ラー油の人柄は変わっていません。
水を運んできた店員にも文句があるようです。
店員を眺めていると柄本希に睨まれました。
睨まれた佐橋ラー油は息苦しさを感じます。
昔の”のぞみ”は母親の持つ懐かしい実家に帰ったような温かさがありました。
くつろげる空間が好きだったのですが、今は厳しく見張られているような気がします。
確かに昔と比べればコンプライアンスが厳しくなったのは間違いありません。
息苦しいと感じる人もいますが社会人としてはマナーやモラルを守らなければならないのです。
身勝手な佐橋ラー油は世間の風潮についていけない理由を他人のせいにしていました。
柄本希の掛け声と同時に周囲の人が全員立ち上がりました。
しかし佐橋ラー油は周りにいる人の顔に見覚えがありません。
実は”のぞみ”に集まっている人たちは全員が佐橋ラー油の被害者なのです。
いったい佐橋ラー油はどんな罪を犯してきたのでしょうか！？
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『あいにくあんたのためじゃない』を読んだ感想
言論や表現の自由を盾に好き勝手なことを発信する評論家の身勝手さに怒りを感じました。
相手の立場を考えられない評論家に対する復讐劇という展開には驚かされましたよ。
自分の主張を押し付ける最低な評論家を断罪していく『あいにくあんたのためじゃない』
傷つけられた人の立場や事情を尊重する優しさも感じられました。
その上で厳しく断罪する復讐劇をお楽しみください。
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